イスラームへの誤解を超えて−世界の平和と融和のために カリード・アブ・エル・ファドル (著) , 米谷敬一 (訳)
イスラームは流血とテロと暴力の宗教なのか?―「愛と平和の世界宗教」としての、イスラームの真実がわかる本。[日本図書館協会選定図書]
いま世界のメディアでは、イスラームといえば当たり前のように、テロや暴力的事件に関連したニュースばかりが取り上げられます。そのため、イスラームはもともと、他の考え方をもつ人々や文化に対して戦闘的手段を取ることをためらわない、過激で非寛容な宗教なのだというイメージを抱いている人が多いのではないでしょうか?
しかし、世界に13億人もいるムスリム(イスラーム信徒)の大多数は、決してそのような排他的な考えをもって生活したり、他宗教の人に接したりしているのではありません。
本書の著者であり、イスラーム思想の世界的権威であるエル・ファドル博士はこの本を、イスラームについて何となく嫌悪感や恐怖感を抱いている読者のために、世界第2の宗教であるイスラームを正しく知ってほしいという思いから書き上げました。
なぜなら博士によれば、イスラームに対する人々の誤解、嫌悪、偏見、無関心が、世界中で起きるテロや暴力や、文化的な対立の一因となっているからです。
たとえば、ムスリム(イスラームの信徒)に求められている人としての務めとは、異教徒を強制的に改宗させることや彼らと戦うことではなく、自らが善い行いに励み、悪しき行為を禁じること、また他人にもそれを勧めることであり、たとえば家庭では、道徳的に正しいしつけを行い、子どもを立派に育てることによって、親はこの義務をはたすことになります。
一般には「聖戦」と訳される「ジハード」という言葉も、本来は異教徒との「聖戦」でなく、自己の欲望との戦いと善のための内面的な努力を意味しています。イスラームの聖典「クルアーン(コーラン)」は、戦いではなく、むしろ「世界に流血、争い、恐怖などがはびこる堕落した状態を阻止する」ことを人間に求めていると著者は述べます。
もともとクルアーンには、ユダヤ教・キリスト教・イスラームは源を同じくする宗教であることが示されており(「われわれの神はあなたがたの神と同一である」)、その教えは、イスラームより先に成立した他の二つの宗教を信じる人々に強制的な改宗を迫ることのない寛容なものなのです。
エル・ファドル博士が読者に情熱をもって訴えるのは、真のイスラームとは、人々が「互いに助け合ってこの世に公正・慈悲・憐れみ・善・美などの神性を実現する」ための宗教であるということです。
イスラームの文化では豊かな多様性と寛容さ、他者への慈しみの伝統、人権尊重の思想が歴史的に受け継がれてきました。
一部の思想勢力によるテロや暴力のニュースから、何となく「イスラームって危ない宗教?」と思ってしまいがちですが、本書を読むことによって、私たちはイスラームが本来もっている人道的な道徳観や、「慈悲」「思いやり」「寛容」の教えが、いかに他の世界の大宗教と共通したものであるかを知ることができます。
本書を読み終えたあと、読者の方々の、イスラームに対するイメージは大きく変わり、単なる知識でなく、生きた宗教としてのイスラームを知ることができるでしょう。
カリード・アブ・エル・ファドル1963年クウェートに生まれる。現代を代表する有力なイスラーム思想家の一人。イスラーム法研究の第一人者でありジャーナリスト。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のロースクール(法学校)教授で、イスラーム法のほか、移民法、人権法、国際および国家安全保障法などを教えている。CNN、 NBC、PBS(アメリカの公共放送)などのテレビやラジオにも多数出演し、イスラーム厳格主義や過激派に対する穏健主義の立場から、イスラームと国際社会の将来について数多く提言を行う。著書に、『Speaking in God’s Name: Islamic Law, Authority and Women』『Rebellion and Violence in Islamic Law』など多数がある。 |
米谷敬一翻訳家。1953年生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。訳書に、『世界の心理学50の名著:エッセンスを学ぶ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)他がある。 |
◆目次◆
日本語版への序文
はじめに
●第1部●真のイスラームをめぐる闘い
第1章 過激派と穏健派の分裂
*穏健派と厳格主義者:用語について
第2章 現代のイスラームをめぐる問題の根源
*宗教的権威をめぐる戦い
*宗教的権威の空白の本質
第3章 初期のイスラーム厳格主義
*ワッハーブ派の起源
*サラフィー主義の起源
第4章 現代のイスラーム厳格主義者たち
●第2部 ● 穏健派と厳格主義者はどこがちがうのか
第5章 あらゆるムスリムに共通する義務
1.信仰告白(シャハーダ)
2.礼拝(サラート)
3.断食(サウム)
4.喜捨(ザカート)
5.巡礼(ハッジ)
第6章 神と創造の目的
第7章 法と道徳の性質
第8章 歴史と近代性へのアプローチ
第9章 民主主義と人権
第10章 非ムスリムと救済について
第11章 ジハード、戦争、テロリズム
第12章 女性の本質と役割
結び
謝辞/訳者あとがき/原註
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