もの思う鳥たち 鳥類の知られざる人間性 バーバー,T.X.(セオドア・ゼノフォン) (著) , 笠原敏雄 (訳)
チンパンジーやゴリラの研究から、いわゆる霊長類には「心」や知能があるようだという事は科学的にも認められてきましたが、鳥たちに関しては、いまの鳥類学では彼らに「心」があるという事実はオープンには認められていないようです。
本書の著者バーバー博士は、鳥類学ではなく心理学の立場から、鳥たちの生活を6年間にわたって調査研究し、その成果をまとめました。
その結果、どう考えても、鳥たちには明らかに「感情」や、「知性」や、「自分の意志」があり、飼い主との間で知的なコミュニケーションをしたり、思いやりのある友情関係を築く能力があるらしい事がわかったのです。
『もの思う鳥たち』
博士は自分の観察結果だけではなく、専門家以外にはなぜかあまり知られていない、鳥たちとの知的コミュニケーションをとることに成功した人々の記録を紹介し、鳥たちは私たちが思っている以上に、はるかに人間に近い存在なのだということを実証していきます。
彼らは自分の歌うメロディーを自分で「作曲」しますし、巣作りや子育てもじつは種類ごとではなく一羽一羽、個性的なやり方があります(第6章)。
渡りのさいにも、本能にしたがって機械的に飛ぶのではなく、冒険家のように、星や地磁気や地上の目印などあらゆる手掛かりを知的に組み合わせて「考えながら」飛行します(第7章)。
彼らは本能だけで生きているのではなく、人間の子どものように、本能をベースとして知的に学習しながら、ものごとが上手になっていく(成長する)のです。
しかも彼らは、私たち人間の言葉を実際に理解し、ものまねでなく自分の意志を言葉で伝えることさえできるのです。本書には人間の言葉を話せる「スター鳥(どり)」がたくさん登場します(オウムのアレックス〔第1章〕、「おしゃべりカケス」のロレンツォ〔第5章〕、ホシムククドリのアーニーとセキセイインコのブルーバード〔第8章〕)。
そしてもちろん、鳥たちどうしはお互いの感情を「さえずり言葉」で伝え合っています。 第8章のスター鳥・ブルーバードは人間の言葉を覚えたので、ガールフレンドのブロンディーにこう話しかけます。「かわいいブロンディーちゃん、キスして Pretty little Brondie. Give me a kiss.」「ブロンディーちゃんはとってもすてき Brondies so nice」!
しかし、バーバー博士が本書で本当に伝えたかったメッセージは、たんに鳥たちには知性と感情がある、という事実だけではありません。
鳥たちが本能だけで動くロボットなのではなく、「心」と「個性」をもち、喜びも苦しみも感じる存在なのだとしたら…… 森を切り開いたり、川や湖を汚して彼らのすみかを奪ったり、さらにはケージに押し込めて薬で人工的に肥らせ、肉を取るためだけに飼育するという、鳥たちとの今のようなつきあい方を今後も続けていくことは正しいのでしょうか?
本書を読み終えた読者の方々はきっと、これからは人間と鳥との新しいつきあい方、新しい関係が必要だということを心から感じるでしょう、そして身近にいる鳥たちと友だちになり、彼らの世界を尊重しながら、ともに共存できるようになりたいと、自然に思えてくるでしょう。
鳥たちは、ただ幸せであるがゆえに、そして誰かに愛を伝えたいがために、歌い、飛翔し、さえずります。彼らは、ほんとうは「羽をもった人間たち」なのかもしれません。
目次
謝辞
はじめに
第1章◆ 鳥たちの知能
アレックス:頭のよいオウム/鳥のもつ概念化の能力/鳥たちの非常にすぐれた記憶力/道具を使う鳥たち/鳥たちの利他的な行動
第2章◆ 鳥たちのもつ柔軟性
鳥の柔軟ななわばり習性/臨機応変な食物探し/冬のすみかと夏のすみかで見られる鳥たちの柔軟性/巣作りと巣の修復のさいに見せる柔軟性/臨機応変な防御/子どもたちを知的に教育する/つがいの相手を選ぶ時の柔軟性/子どもの数を意図的に制限する
第3章 ◆ 本能に導かれる鳥と人間
人間の言葉の本能的な背景/本能に導かれる人間の新生児/カッコウのひなの本能/本能を知的に用いる
第4章 ◆ 鳥たちの言葉
人間の身体言語/鳥の身体言語/鳥たちの鳴き声による言葉/鳥のさえずり言葉/鳥の会話
第5章 ◆ 偉大なるロレンツォ:おしゃべりカケス
第6章 ◆ 鳥たちの音楽、職人的な技巧、遊び
鳥たちの音楽/鳥たちの美的センス/鳥たちの職人的な技巧/鳥たちの楽しみ、遊び、踊り
第7章 ◆ 鳥たちの航法
太陽をコンパスとして使う/星の配列を・読む・/風と天気を・読む・/目で見える陸標を・読む・/地球の磁気を・読む・/におい、人間に聞こえない音その他の、かすかな手がかりを・読む・/賢明な渡りの判断/経験に学ぶ/鳥たちの航法のあらまし/人間の航行能力/本能的な背景
第8章 ◆ 人と鳥との個人的な友情
言葉を話すホシムクドリ/とても社交的なコクマルガラス/大学教授とミミズクの友情/・人・格をもつインコ/セキセイインコのブルーバード(創造的歌唱/性的行動/遊び/飛ぶのを喜ぶ)/●ブロンディー ●ラヴァー/たくさんの野鳥との間に育まれた親密な友情/●ジェーン ●カーリー ● ツイスト ●鳥の個別性と個性
第9章 ◆ 鳥の知能の全体像
鳥たちが人間よりもすぐれている点/人間が鳥たちよりもすぐれている点
第10章 ◆ なぜ鳥は完全に誤解されてきたのか
個としての鳥を知らないこと/飼育される鳥たち (家禽/かごの中のペット)/大きさにまつわる虚偽/「小さな脳」にまつわる虚偽/本能にまつわる誤解/知能にまつわる誤解/人間の自己中心性/人間の利得/擬人化することに対する恐怖
第11章 ◆ 動物はすべて知的なのか
高い知能をもつ類人猿/●ゴリラのココ ●チンパンジーのワショー ●記号を使う他のチンパンジーたち ●洗練されたチンパンジーたち/クジラ目の動物/●イルカたち ●クジラたち/ 知的な魚類/知的な膜翅類/●アリ ●ミツバチ
第12章 ◆ 動物の知能がもつ革命的な意味
人間、この破壊するもの/人間性の回復
◎付録A 認知比較行動学革命の進展
行動科学および脳科学の研究者のための解説
◎付録B 知的個体としての鳥を個人的に体験する方法
野鳥と友だちになる/自宅で自由に暮らす鳥と友だちになる/鳥と友だちになることの重要性
◎付録C 本書に登場する鳥の和名および学名
原註/訳者後記/索引
著者プロフィール
バーバー,T.X.(セオドア・ゼノフォン)1927年アメリカ合衆国オハイオ州生まれ。アメリカン大学で社会心理学の博士号を取得後、ハーヴァード大学で研究に従事。1961年から1978年までメドフィールド財団に在籍、研究部長を務める。クッシング病院心理部長を経て、1986年「学際科学研究所(the Research Institute of Interdisciplinary Science)」を設立。催眠研究の第一人者として、多くの研究者に影響を与え、人間の心と体の関係(心身問題)や意識の諸側面の研究でも知られる。 200以上の論文を発表、8冊の著書を上梓。邦訳書に『催眠』(誠信書房)、『人間科学の方法――研究・実験における10のピットフォール』(サイエンス社)がある。 本書は、著者が認知比較行動学の見地から鳥類の知能と行動を6年間にわたり調査研究した成果をまとめたものである。 |
笠原敏雄1947年生まれ。早稲田大学心理学科を卒業後、北海道や東京の病院で心因性疾患の心理療法を続け、96年、東京都品川区に〈心の研究室〉開設。著書に『幸福否定の構造』(春秋社)、『希求の詩人・中原中也』(麗澤大学出版会)その他が、訳書に『前世を記憶する子どもたち』『生まれ変わりの研究』『超心理学史』『新版「あの世」からの帰還』『続「あの世」からの帰還』(以上、日本教文社)その他がある。 |
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